チヌフカセ釣りの名手・大知昭(おおち あきら)さんのチヌ釣りのルーツや数々の栄冠を手にしたトーナメントへの取り組みなどを連載で紹介! ※プロフィールなどは2014年当時のもので現在と異なるものもあります。
決勝の対戦相手は?
「シマノ ジャパンカップクロダイ釣り選手権(以下ジャパンカップクロダイ)」で初日2試合に勝利した大知さん(詳細はコチラ)。大会は2日目を迎えた。
この日も朝から雨模様。会場である佐伯湾には番匠川から大量の水が流れ込んで湾奥は真っ白に濁っていた。そんななか、大知さんは四国大会1位の選手と「一文字の白」で対戦。
水潮が広がって前日以上にチヌの食いが渋くなるなか、得意の沈め釣りできっちりとチヌをキャッチ。2,891gの釣果を上げて予選3戦全勝で決勝戦へと勝ち進んだ。
「うれしかったと同時にすごく気になる試合があった」
と大知さんが言う試合は、初日に同じ2勝をあげていた藤原実浩選手と息子の大知正人選手が対戦する試合。勝ったほうが決勝の相手となるからだ。
「親子で全国大会の決勝戦というのは夢のひとつだったからね。正人にはがんばってほしかったよ」
この試合は前半から百戦錬磨の藤原選手のペースで進行した。まずポイント選択の優先権を持つ藤原選手が、それほど潮に濁りが入っていない港内向きを選択。そして潮目を狙って集中的にマキエを打っていきなり50cm近い良型を釣り上げてみせた。
トップトーナメンターの藤原選手をして「よっしゃ!」と思わず声の出るほど手応えのある1匹だったようだ。藤原選手はそこからコンスタントにチヌを釣り上げていき、釣り座交代前には4匹のチヌを手にした。
一方の大知正人選手は藤原選手のラッシュを目の当たりにした焦りからかポイントを絞りきれなくなっていた。際や沖などを狙うがアタリがないままに前半終了を迎えた。
後半になると大知正人選手も良型をキャッチ。しかし、この頃には港内にも濁り潮が入って藤原選手が釣っていたときと比べるとかなり厳しい状態になっていた。さらに食い渋っているのか、続けてヒットさせるもハリ外れが数回。思わず、「あっ」と声を出して落ち込む……。そのままペースを上げることができないままに試合終了。藤原選手が勝利を収め、大知さんが待つ決勝戦へと勝ち進んだ。
激戦となった決勝戦
第1シードと第2シードの対決となった決勝戦。藤原選手は「鱗海カップ」からの連覇&「ジャパンカップグレ」との2冠達成をかけての勝負となり、自然と集中力が増している。
一方の大知さんもかなり気合が入っていた。このとき現地で編集部が取材しており、決勝戦への意気込みを聞いてみた。
「子の仇は親が討たんとイカンやろ~」
笑いながらも本気の目で答えてくれた。そこには楽しみにしていた親子対決を実現できなかった悔しさも混じっていた。
また、これまで「第1回鱗海カップ」や「第1回マルキユーカップチヌ」など数々の大会の初代王者を手にしているので、この「第1回ジャパンカップクロダイ」も絶対に優勝したいという気持ちが誰よりも強かったのだ。
大知さんと藤原選手、どちらが勝ってもおかしくない実力者同士のぶつかり合いの舞台は「石積2」。予選リーグでは2試合とも好釣果が上がっており、決勝戦にふさわしいポイントだ。
まず大知さんが右側、藤原選手が左側の釣り座に入った。報道や選手らたくさんのギャラリーが見守るなか、試合開始のホイッスル。2時間の激戦が幕を開けた。
海の状況は雨により大量の水潮が入ったうえに右からの横風が吹いて上潮が左へと滑っていく。プライベートの釣行なら仕掛けや道糸をどんどん流していけるが、今回は相手選手との境界線があるので流せる範囲が限られる。特に大知さんが最初に入った右側はあまり流せない。
決勝戦前半は静かな立ち上がりとなった。お互いノーヒットのまま15分、30分と時間だけが経過していく。そのまま40分近くたった頃、風が急に弱まってきた。このタイミングを見逃さずに藤原選手が最初に竿を曲げるも、これはヘダイで検量対象外。しかしヒットパターンをつかんだようで50分、55分と立て続けにチヌを釣り上げてリードを広げた。
一方の大知さんはノーヒットのまま前半を終了。
釣り座を交代して後半戦がスタートした。
逆転を狙う大知さんだが、後半戦に入るとすぐに止まっていた風がまた吹きはじめた。さらに厳しさが増すなか、ついに大知さんが竿を曲げた。ところが、ハリ外れ……。食いが浅かったのだろうか、思わず天を仰ぐ。
しかし、ここで集中力を切らさないのが大知さん。後半15分にキープサイズを少し超えたチヌをキャッチ。ここから追撃開始かと思われたが、藤原選手がすぐにチヌを追加して3匹対1匹と引き離す。
雨が降ったと思ったら青空になったりとめまぐるしく天候が変わるなか、後半も半分が経過。ここで大知さんがアワセと同時に『鱗海スペシャルRB』 1号を大きく曲げた。取り込まれたのは45㎝超と思われる良型チヌ! まだ数は藤原選手の方がリードしているが重量はこれでわからなくなった。
次に良型を追加したほうが有利だと思っていると、32分経過したところで藤原選手が竿を曲げた。かなり慎重に寄せてきたのは40cmオーバーと思われる良型。ここで残り時間はあと18分、これで藤原選手がグッと優勝へ近づいたと誰しも思っていた。
しかし、
「最後まであきらめない」
これが大知さんである。
食いが渋いため、風に道糸をもっていかれてサシエに変なテンションがかかるとチヌが離してしまう。大知さんは滑る上潮をかわすためにウキを少し早めに沈め、道糸を多めに出していく。あえて居食い状態を作った大知さんの狙いは大当たりだった。
仕掛けを回収するように道糸を巻いていくと、いきなり竿が大きな弧を描いた! その竿曲がりの大きさから大物チヌと察知したギャラリーから「おおぉ」とどよめきがあがった。
ここからは大知さんにとって緊張のやり取りの開始となった。
「決勝の1匹と内海くんの試合の1匹は、ドキドキしたよ。玉網に入るまでバレないでくれ~って心の中で願っていたから。腰が引けてへっぴり腰になってたと思う」
そう試合後に語ってくれたが、ギャラリーにはそんな気配を感じさせることのない落ち着いた見事なやり取りでチヌを寄せてきた。玉網に入ったチヌはやはり大型。一瞬、カメラにチヌを見せたが、大知さんにしては珍しくすばやく活かしバッカンの中へ。
「手で持ってみんなに見てもらいたかったけど、万が一、逃げられたらいかんやろ。飛び出してもいいように、ハリスを切らないまま活かしバッカンに入れたのははじめてやったな」
この試合に勝ちたいとの大知さんの思いはそれだけ強かったのだ。そして大知さんがすぐに活かしバッカンに入れたため、ギャラリーはこのチヌの大きさを正確に把握できなかった。
この直後に大知さんは小型を1匹追加。これで5匹対4匹。 そしてそのまま試合終了のホイッスルが鳴った。
ジャパンカップチヌ 初代王者決定!
大知さん、藤原選手ともに釣り上げたチヌの正確な大きさがわからないこともあって、試合終了後もギャラリーや報道もどちらが勝っているかわからない。が、「藤原選手が優勢ではないか?」との声が多く聞かれた。
渡船に乗り込むと両選手ともに笑顔でお互いの健闘をたたえる。その表情は大知さんのほうが余裕があるようにも感じた。
検量はまずは藤原選手。5匹で3,296g。続いて大知さんが活かしバッカンからチヌを1匹、1匹取り出していく。小型が2匹、続いて良型が1匹、全員の視線が集まるなかで取り出された最後の1匹は多くの人が思っていたよりも大きな54cmの大型チヌだった!
どよめきが起こるなか、発表された重量は4,776g。大知さんが見事な大逆転で「第1回シマノジャパンカップ クロダイ」初代王者に輝いた瞬間だった。
「最後の1投まであきらめずに釣り続けることが大切」
今大会で大知さんを優勝に導いたのは、最後まであきらめないこの姿勢だった。これは多くのギャラリーの心に刻み込まれたのではないだろうか。
父親の試合を間近で見た大知正人選手は、「こんな父を持てたことを誇りに思います」と語ってくれた。実は大知さんにとってはこの言葉が一番うれしかったようだ。
終わりのないチヌフカセ釣りの道
この大会の後、大知さんは釣りのスタイルが少し変わっていった。トーナメントにも出場するが、時間の限り、チヌフカセ釣りの普及で全国各地へ脚を運ぶようになった。そして後進の指導にもよりいっそう力を入れるようになってきたのだ。
「知らないことも多いし、釣ったことがない場所もまだまたくさんある。なによりチヌ釣りの楽しさをもっと広めたい。動けるときはどんどん動いていきたいよね」
そう語ってくれた大知さんは、これからも自分でも終わりが見えないチヌフカセ釣りの道を歩んでいく。
あとがき
17回に渡って紹介してきた「大知昭ヒストリー」だが、これはあくまで過去の話。その後もPEラインを使ったPEフカセを広げたり、毎年ロクマル=60cmオーバーの巨チヌもキャッチするなど、60歳後半になった今でもその釣技は進化を続けているのだ。
またチヌフカセ釣りの普及のため全国を飛び回りっている。東北や北陸、静岡でチヌフカセ釣りを広げ、さらに日本を飛び出して香港や中国・ベトナム・タイなど海外でもチヌを釣り上げ各地に釣友(大知昭ファン)が増え続けている。まだまだ大知昭さんのチヌフカセ釣りの道は続いていきそうだ。
またそう遠くない先に、新しい大知昭ヒストリーを紹介したいと考えています。/【釣りぽ】編集部
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