チヌフカセ釣りの名手・大知昭(おおち あきら)さんのチヌ釣りのルーツや数々の栄冠を手にしたトーナメントへの取り組みなどを連載で紹介! ※プロフィールなどは2014年当時のもので現在と異なるものもあります。写真は主にモノクロとなります。ご了承ください。
家島諸島で大会に挑む
「LF磯チヌクラシック」の3回目が開催されるひと月半ほど前、大知さんは兵庫県家島諸島一帯にて開催された「2008マルキユーカップ全日本チヌ釣り選手権大会 決勝戦(以下マルキユーカップチヌ)」に挑んでいた。
マルキユーカップチヌは2001年に第1回が開催され、2008年の大会で8回目となる。大知さんは初回からフル出場しており、戦績は優勝1回、準優勝2回。そのほか優勝争いに何度も絡んでいる。
過去7回は広島湾を会場にしていたが、第8回から舞台を家島諸島に移すことになった。戦う場が変わることを大知さんはどう感じていたのだろうか?
「家島での釣りは何度も経験していたから、イメージはあったかな。不安よりは新しい場所での大会開催に期待していた部分が大きかったと記憶しているよ」
家島では有志でトーナメントを開催したこともあるとのこと。しかし魚影の濃さという点で見れば広島湾には譲ってしまう。場所ムラもあるので、大知さんとしては釣り合いの展開はあまりなく、1匹を競う厳しい試合になるだろうと予測していた。
大会前夜の23日は対戦抽選会や懇親会が行われた。大知さんはいつものごとく他エリアの選手とコミュニケーションをとり、若手にも冗談をまじえてアドバイスを送る。これが大知さんらしさ。
トーナメントではどうしても緊張したり、試合前にピリピリした空気を出してしまいがちだが、大知さんはいつでも自然体なのである。 こうして夜はふけ、大会初日に大知さんは2度目の栄冠を目指し、大会へと挑んでいった。
試合への想い
大会初日。この日は一回戦と準々決勝が行われる。試合はトーナメント方式。
一回戦は3名1組の8ブロックに分かれ、120分交代の360分の試合時間。これは広島湾でのときと変わりはない。
大知さんを含めた全選手が午前4時に出船場所へ集合。天気予報は夜中から雨だったが、外れたようで雨は降っていなかった。
「ちょっとひと安心したよ。ふだんの釣りだと雨くらいなんてことないんだけど、試合のときはね……。気を抜くとマキエが雨で濡れて硬さを変えてしまうし、竿とラインがベタついて仕掛けの飛距離やライン操作に影響が出る。気を使う部分が増えるんだよ」
なんとか天候がもってくれれば……との選手の思いのなか、午前5時頃試合開始。しかし約4時間後に心配していた雨が降りはじめた。5月下旬とはいえ、雨に打たれ続ければ体力はいつもより消耗しやすくなり、ウエア内部が蒸れてくるとどうしても集中力を欠く。しかし大知さんはここできっちりとした展開をすることが勝利のカギと確信し、竿を振ってチヌを追加していく。
もっともそれはほかの選手も同様だった。さすがは全国大会へのキップを手にしてきた手だれたちである。
一回戦終了後、その場で検量してチヌはリリース。審査方法は25cm以上のチヌ9匹までの総重量で、各ブロックの1位(計8名)が準々決勝へ進める。大知さんは見事次の試合へとコマを進めた。
準々決勝から決勝までは2名1組のトーナメント方式で90分交替のトータル180分で競われる。選手たちは試合が行われる磯でマキエを作る。マキエや仕掛けの準備が整うと休憩する間もなくすぐに準々決勝がスタートというハードなスケジュールである。
「釣りの大会っていうと、知らない人はのんびりしたイメージを抱いたりとか、イメージすらできないって人もいる。でも競技だからね。普段の釣りとは別ものかな。チヌを釣る技術だけでなく、このハードなスケジュールに耐えられる体力と精神力が必要となるよ」
と大知さん。
準々決勝を行うあたりから雨が少しずつ弱まりはじめた。だからといって釣果がすぐ上がるわけではない。大知さんはこの試合でリードしていたものの、対戦者に追い上げられる展開だった。
「運がよかった。結果は50g差だったからね。辛くも勝ち抜けた感じ。これまで残り時間5分とかで逆転されたことが何回もあるから、仕掛けが海から上がるまでホントに油断できない。今回なんて残り1分でのヒットだったからね。60g多かったら自分の負けなわけだしね」
いつも大知さんが口にする「最後まであきらめない」という言葉は、この競技の釣りから得たことなのだという。こうして4名の選手が準決勝へ進むことになった。
厳しい戦いを制し優勝!
準決勝へコマを進めた大知さんだが、この大会を通じて感じたことがあったという。それは試合展開、そして優勝への考え方が変わってきたことだった。
「お世話になっているメーカーさんに恩返しする意味で勝ちたいって想いはもちろんあるけど、自分が競技の釣りをはじめた年齢と同じくらいの選手が台頭していてね、そういう選手の手本となるように釣りをしないとって思うようになったね。そのうえで優勝。記録だけでなく、所作の面でももっと内容を充実させないと! ってね」
常に自分を省みる大知さんらしい言葉である。これが現在もなお大知さんが第一線に立ち、後進の高い壁になっている理由なのだ。
そんな想いで迎えた準決勝。前日からの雨がまだ残っており、コンディションが心配されたが、大知さんは落ち着いていた。終始大知さんのペースで試合は進み、3匹釣って決勝へコマを進めた。
「いいリズムができてきた感があったね。でも魚がカンタンに出る感じはなかった。決勝こそ厳しい展開になると思ったね」
決勝がはじまるころ、雨がちょうどやんで気温が上がってきた。しかし試合は序盤から膠着状態が続いた。そしてチヌの顔を見ることなく、場所交替で後半戦へ。大知さんの予感が的中したのだ。
この状況にギャラリーやスタッフにも「このまま釣れないのか……」という雰囲気が漂っていたという。
そんなとき大知さんが竿を曲げた。掛けた場所から取り込みのコースは藻が密集しており、チヌが何度も藻に突っ込む。大知さんは突っ込まれるとラインを張らず緩めずにしてチヌが動くのを待ち、動き出したところで一気に浮かせる。1号という細いハリスでこれをやってのけてしまうのだ。
「これはやっぱり竿の性能が大きいよ。この大会では『鱗海スペシャル』0.6号を使ったけど、しっかり衝撃を吸収する胴のおかげで細いハリスの能力を最大限活かしてくれたよ」
この後も大知さんのヒットが続くかと思われたが、このまま試合終了。大知さんが第1回大会以来となる久しぶりの栄冠を手にした。
「久しぶりの優勝で本当にうれしかった。家島は難しい所だけど、チヌが釣れたのはいい配合エサのおかげもあるよ」
この後もトーナメントが続いていく。大知さんはそのほとんどで優勝戦線に絡んでいった。そして念願の大会が2011年に開催されるのであった。
【第16話】に続く
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