チヌフカセ釣りの名手・大知昭(おおち あきら)さんのチヌ釣りのルーツや数々の栄冠を手にしたトーナメントへの取り組みなどを連載で紹介! ※プロフィールなどは2014年当時のもので現在と異なるものもあります。写真は主にモノクロとなります。ご了承ください。
チヌ釣り名手勢揃い
地元釣り雑誌「レジャーフィッシング」誌(以下LF※2023年休刊)が2006年から2008年まで広島湾を会場に開催したチヌ釣りトーナメント「LF磯チヌクラシック」。
この大会はLFにご協力いただいているチヌフカセ釣りの名人たちを選抜し、トーナメント方式で優勝を争ってもらうというもの。大知さんをはじめ、9名の選手が名乗りを上げてくれた。いずれもメーカー主催の全国大会などで好成績を収めた人ばかりだ。
「大会の話を聞いたときはお祭りという感じでわくわくしたよ。でもやっぱり試合だからね。ベストを尽くして優勝しようと誓ってたよ。それはみんな一緒じゃないかな」
大知さんも楽しみにしていた2006年の第1回の出場メンバーは以下の通り。「大知昭」、「南康史」、「吉田賢一郎」、「笹川忠弘」、「吉田元」、「桝田高好」、「藤原実浩」、「矢部裕之」、「内海通人」(順不同)という顔ぶれ。
大知さんのホームグラウンドである広島湾開催といえど、誰が優勝してもおかしくはない実力の持ち主が集合した。
9名の選手は3名1組の計3組に分かれて対戦。25cm以上のチヌの総重量で順位を決め、各組1位の3名が決勝戦を戦うルール。25cm以上の総重量というルールは開催した7月には広島湾のチヌのアベレージが小さくなることを想定してのものだ。
1回戦から遠投!
1回戦で大知さんは矢部選手、藤原選手と戦うことに。
矢部選手は同じシマノ磯インストラクターとして釣技を競い合った仲間。藤原選手はさまざまな場所で激しい試合をしてきた好敵手。激戦が予想されたが、フタを空けてみると、大知さんが2選手に差をつけての勝利だった。
その差は「遠投力」。
当然、全員遠投していたのだが、大知さんは他の2選手よりも沖を釣っていたのだ。その分、2選手のところにエサ盗りが集まりやすくなり、チヌヒットのペースに差がついた。
「いろんな大会の第1回優勝を手にしてきたからね。お祭り的な大会といえど、絶対欲しかったタイトルだったんだよ。最初からガンガン飛ばすつもりでいった。2人とも本気だったしね」
大知さんの言葉を証明するかのように、2選手は「すごい遠投だった。勝つためになんとか食らいついていきたかったが、追いすがることができなかった」とコメントした。
遠投を繰り返しての終盤、矢部選手と藤原選手は飛距離が落ちてきたのだが、大知さんは2人よりも飛距離を出していながら最後まで落ちることがなかったのだ。大知さんが驚異的なスタミナも証明した試合となった。
1回戦のほかの試合はまず吉田賢一郎選手が南選手、内海選手との戦いを制して勝ち上がり。もうひとつの試合では笹川選手がベテランの釣技で逆転勝利し、勝ち上がってきた。この3選手の対戦は当時チヌのトーナメントに参加していた人にはかなり興味深いものではないだろうか。
「誰が上がってきても条件は一緒(厳しい)。あとは自分の釣りをするだけ。この試合も最初から飛ばしていくよ」
これは試合を前にした大知さんの言葉である。こうして小雨がパラつくなか、決勝戦がスタートした。
圧倒的勝利!
決勝は静かな立ち上がり……とはならなかった。またも大知さんが最初から遠投で勝負に出たのだ。
手前はエサ盗りが多いし、2選手がチヌを釣るだろうと見越し、沖にポイントを作ることを狙ったのである。
そして2選手がエサ盗りをきらって遠投しはじめると、大知さんはさらに飛距離を伸ばしてさらに沖にポイントを作った。試合をしながらこの距離を見た笹川選手は「対戦しながらまだ飛ばすの? と圧巻でしたよ」とコメントしたほどだ。
3選手とも遠投しての釣りには自信ありだったが、スタミナ、精度の面で大知さんが一歩上回った。トーナメントで集中して遠投を繰り返していると、通常は距離と精度が落ちてくるのだが大知さんはどちらも落ちないのだ。これは見ていたほかの選手や取材班もただただ見とれるばかりだった。
決勝戦の終了のホイッスルが鳴った。検量の結果は、吉田選手が3,960g、笹川選手は1,120g。これに対して大知さんはなんと11,230g! 圧倒的な釣果で大知さんが優勝を勝ち取った。
「どうしても欲しいタイトルだったからうれしかったけど、それ以上にうれしかったのが、このメンバーでやれたこと。チヌ釣り大会で上位入賞という条件なのに全員瀬戸内の人でしょ。それがすごくうれしかった。自分が30代のころを思うと瀬戸内エリアのチヌ釣りがすごく成長したわけだからね。本当に楽しかったよ」
大知さんは試合後にそう語った。この大会中、大知さんは他のトーナメントと比べてとてもリラックスしているように見えた。プレッシャーが掛かる大会での緊迫感が生み出す力とは違う、うれしい気持ちからくる自然体での力が圧倒的な勝利を生み出したのかもしれない。
そして大知さんは翌年の『第2回LF磯チヌクラシック』でも驚異的な勝利を見せることになる。
【第14話】に続く
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